栗林浩句集『うさぎの話』

 恥ずかしながら句集『うさぎの話』を上木致しました。遅まきの第一句集です。感謝の意を込めて、あとがきには次のように書きました。



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あとがき
 俳句を始めてから約20年間の数多くの作品を、ご多忙の高野ムツオ先生にお願いし、295句に絞って戴き、序文まで戴くことができました。厚くお礼申し上げます。
 佳句を成すためには、酒米を削りに削って大吟醸を造るがごとき営為に喩えられましょうが、私の場合は、まだまだ雑味が残ってあろうかと思っております。俳句を広く勉強する意図で、あえて多くの句会に出席させて戴きました。傾向が違っても佳句や好句が沢山あることを知りました。そのせいで、自分の独自の句柄を完成させていないような気がします。しかし、どれも私の作品であります。節操のなさを、どうぞご寛恕ください。
 句集名は、湖水地方の旅の記憶からなった冒頭の句〈イギリスのうさぎの話灯を消して〉に因みました。
 ご縁を戴いて来た各句会の皆様の日頃のご厚誼に感謝致しております。さらに「街」の今井聖主宰、「円錐」の澤好摩代表、「遊牧」の塩野谷仁代表からは、栞文を戴くことができました。心からお礼申し上げます。
 また、句集をこのように纏め上げて戴いた角川文化振興財団『俳句』編集部の皆様にも謝意を申し上げます。

 序文を戴いた高野ムツオ先生の10句選は次の通りです。

 月並みのされど母校の桜かな
 絨毯に沈む足裏憂国忌
 行く夏のからとむらひか沖に船
 耕して天に至りて還らざる
 鼻に入る海水痛し敗戦日
 広島の地べたが火照る夜の秋
 トンネルの上に海あり天の川
 アーリントンの万の墓石鳥帰る
 くちびるといふ春愁の出口かな
 防人の文を焚く火ぞ不知火は

 栞文を戴いたお三方の引用句は次の通りでした。

 今井聖「街」主宰

 イギリスのうさぎの話灯を消して
 うららかや耳掻くときは後ろ足
 色鳥来ふつうの鳥も来てをりぬ
 鯨啼く夜間飛行の瞬きに
 短夜や海のけものの声止まず
 南瓜に灯点りて酒場動き出す
 大根を吊るだけと言ひ釘を打つ
 煮凝りや天井裏を走る音
 摘んでゐない積木のやうな雪の街

 澤好摩「円錐」代表

 眼鏡拭く夏うぐひすに耳預け
 中ほどがさびしい花のトンネルは
 あしあとの湖へとつづく桜かな
 台風の目のなか大きな声の人
 八月やラヂオの中の砂利の音
 鼻に入る海水痛し敗戦日
 短夜や海のけものの声止まず
 波の花赤い船底見えてゐる
 トンネルの横にトンネル葛の山
 木と紙の家に三和土の涼しけれ
 竹の春さびしき湾が全部見え
 湖凍る音だと言ひて灯り消す
 短日の自動ピアノの前に椅子
 十能の熾火の匂ひ雪くるか
 腕なき抱擁の像ぼたん雪

 塩野谷仁「遊牧」代表

 トンネルの上に海あり天の川
 色鳥や定形外のはがき来る
 中ほどがさびしい花のトンネルは
 目の玉の沈んでゐたる冬の水
 耕して天に至りて還らざる
 野遊びの軋みて曲がる縄電車
 人類とパンに臍あり恵方あり
 虹へゆく階段として朱雀門
 くちびるといふ春愁の出口かな
 ホームより長い電車来修司の忌
 縄跳びのあとはひとりの手鞠かな
 誰が殯かくも蛍の多き夜は
 逃水を追うてモンサンミシェルへ
 倭坐りの仏の膝の四温かな
 追越せぬものに逃水わが言語
 昼も星落ちると思ふハンモック
 竹の春さびしき湾が全部見え
 防人の文を焚く火ぞ不知火は
 二円切手たくさん貼れば雪がくる

 さて、自分自身の10選は、難しいのですが、次の通りとしておきましょう。

 闇を出て闇に入る間の桜かな  
 誰が殯かくも蛍の多き夜は
 プール出るときの地球の重さかな
 蝉の穴東独逸に出てしまふ
 アイロンのシャツの温みや冬隣
 イギリスのうさぎの話灯を消して
 目と耳を置いて消えたる雪兎
 大根を吊るだけと言ひ釘を打つ
 海へ向け布団と老人干してある  
 かまくらを出て知る星の高さかな

 そして、「現代俳句」2019年4月号に載った次の句は選者6人の方々の全員が選んで下さった記念すべき一句です。

 花菜漬いまなおすこしだけ左翼

 有難う御座いました。


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