澤禎宣句集『鵙猛る』

 該句集を読む機会をえた。澤氏は鳥井保和主宰の「星雲」の極星集同人で、同結社の色々な賞を貰っている。『鵙猛る』は第一句集である(令和元年6月5日、角川書店刊行)。


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 鳥井主宰が丁寧な序文を書いている。その主宰が帯に掲げた12句は次の通り。

  蕗味噌や郷の山河はダムの底
  故郷の表厠や冬銀河
  裂帛の気合ぶつかる寒稽古
  寒垢離の気合鋭き修行僧
  補陀落の渡海の浜や涅槃雪
  紅白の盆梅飾る呉服店
  十字切る雪の高野の異邦人
  うららかや郵便ポストに番地あり
  一村の沈むダム湖に盆の月
  鵙猛る無人駅舎の手配書
  鯛焼の鱗数へてゐたりけり
  六道の辻に迷へる道をしえ

 筆者が好んだのは次の作品である。非常な多数に及んだ。一見、既視感のある句もあったが、何処かが引き締まっている。また、予定調和的なのも散見されるが、予定調和というのは、読者の期待通りに収まっていることを意味し、共感の元となるので、必ずしも悪いことではない。見事に決まると読者も嬉しい。(*)印は筆者と鳥井主宰の選の重なったもの。

019 燕の子見上げる子らも口開けて
020 石仏を埋め尽して曼珠沙華
023 潮の香を厨に満たし石蓴煮る
025 囮鮎商ふ峡の理髪店
029 鰯売抱へる秤生臭し
030 十貫の九絵の魚拓に秋の蠅
034 前掛けに鱗光らせうるめ干す
037 釣果なき魚籠の中より蕗の薹
039 勝鷄の血糊に染まる蹴爪かな
056 駄菓子屋に駆け込んでくる白き息
063 陶器市白磁の皿に花の屑
066 梅花藻の育つ水路に米を研ぐ
069 祖父からの宅配便の兜虫
073 虫籠を吊る地下街の理髪店
077 猪鍋や峡の酒場の木挽歌
087 野猿にて届く昼餉や谷若葉
090 螢舞ふ峡の苫家の薪の風呂
093 上司から肩叩かるる昼寝覚
094 喪服着てバス待つ人や日の盛
095 堰止めし川がプールの分校児
098 底紅や屋根に石置く蜑の家
098 村長の行司が裁く宮相撲
106 猟犬と猟犬出合ふ獸道
108 草庵の檜皮に草の萌ゆるなり
126 うららかや郵便ポストに番地あり(*)
126 土筆摘み切符に使ふ縄電車
127 赤札もぶら下げてゐる植木市
135 獅子岩が川のプールの見張台
135 炎昼に朝刊届く島の宿
143 座布団は熊の毛皮よ囲炉裏端
151 清流の飛び込み台は丸太橋
153 久々に村に嫁来る稲の花
154 招待状夫婦に届く敬老日
159 鯛焼の鱗数へてゐたりけり(*)
162 蕗味噌に茶粥の朝餉峡の宿
165 蛇摑みあつけらかんと草刈女
169 名木の三日に亘る松手入れ

 筆者共鳴の句から幾つか鑑賞してみる。

025 囮鮎商ふ峡の理髪店
073 虫籠を吊る地下街の理髪店
 理髪店が舞台。片や囮鮎を扱っている。もうひとつは地下街の理髪店で虫籠が吊ってある。のんびりした地方都市の宜しさがうかがえる。こころ和む句である。

030 十貫の九絵の魚拓に秋の蠅
 十貫だから40キロ近い大物。和歌山だから「九絵」は有名。見ごたえのある魚拓であろう。上手いのは「秋の蠅」。リアルで魚の匂いまで感じさせてくれる(もう匂わない筈なのだが……)。筆者イチオシの一句。

039 勝鷄の血糊に染まる蹴爪かな
 このほかにも闘鶏の句がある。澤さんは色々な所へ出かけて行くらしく、句材が豊富。羨ましい限りである。しかも、こういう場面に遭遇して、見逃さずに、確かな、リアルな一句を仕上げている。

069 祖父からの宅配便の兜虫
 当節、かぶと虫は宅配でも送れるのであろう。軽い驚きと、お子さんの嬉しそうな顔を想像して、読者としても楽しい一句。

093 上司から肩叩かるる昼寝覚
 ユーモラスな句。肩たたきという深刻な状況の夢をみたのか、それとも、会社で昼休み、しばし微睡んでいたら、上司に「ねえ君」とか肩を叩かれて正気に返った……という二重の場面が想像できた。面白いだけでなく、勤め人のペーソスのある句。

095 堰止めし川がプールの分校児
151 清流の飛び込み台は丸太橋
 川泳ぎの句。田舎の自然豊かな環境。都会っ子には羨ましい。いや、田舎でも最近は珍しいのかも知れない。

106 猟犬と猟犬出合ふ獸道
「猟」に関する俳句は都会ではなかなかお目にかかれない。しかも獲物が大きかったとか、猪に逃げられたとか言うのではなく、猟犬と猟犬が獣道で出合うというごくささやかなことを詠んだ。こういう場面に出会わないと詠めない句である。いや、そうであっても、こういう一句を成すことは、案外簡単ではない。大抵は凄いことを詠んでやろう、と気張るからである。

127 赤札もぶら下げてゐる植木市
 欲しいものがあって出かけたのだろうか、植木市。値札が枝に結んであるのだが、中には特価の赤札もある。その一点にこの句は焦点を当てている。上手い句。

153 久々に村に嫁来る稲の花
 今でもこの状況はあるのであろう。お目出たい。村中で祝うのであろう。季語「稲の花」が絶妙。季語が近すぎるなどと言うなかれ。豊作が予見される。

 鳥井主宰の選と重なった二句。
126 うららかや郵便ポストに番地あり(*)
 言われてみて、そうだと気がついた。たしかポストには番号なども書いてある。その所番地を我々が宛先に書いて出すことはないのだが、ちゃんと表示はあるのである。俳諧味豊か。

159 鯛焼の鱗数へてゐたりけり(*)
 この句も俳諧味豊かなゆえに取らされた。鱗は何枚くらいあるんでしょうかね。平和な句。「ゐたりけり」の緩い断定が面白さを増幅した。

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