谷さやん―俳句とエッセー『空にねる』

 谷さんは「船団」のメンバー。第一句集『逢ひに行く』で、宗左近俳句大賞を受けられた方。『空にねる』は第二句集で、平成三十年三月三十日、創風社刊行。俳句とエッセーからなっているが、まず、俳句部分を読ませて戴いた。末尾の章「私の十句」に掲げられているのが、今までの句からの自選10句に相当する作品であろう。次の句である。


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  露草のホントは白といふ秘密
  わたくしも本もうつぶせ春の暮
  おとといの葵祭の弟と
  梅雨の窓三角形になりたがる
  短日の本を出てくる手紙かな
  冬青空すすみて「赤旗」をもらう
  毛布のなか滝の名前を言い合って
  くたびれる住宅地図も睡蓮も
  福引の白が気の毒そうに出る
  蜂の巣の今後岸辺にたたずんで

 一句ずつ自解や、句の背景が、述べられている。これらの十句は(その他の全句もそうなのだが)、一読してお分かりのように、実に天真爛漫な作り方である。ふっと体験したこと、見たことをそのまますぐに俳句に書いている。凄いことを言ってやろうとか、大感動を読者に百パーセント伝えようなどと気張らない。しかも、独創性があり、「船団」的と言おうか、楽しくスラスラと読める。一句目の「いふ」で分かるように、初めは歴史的仮名遣いだったが、その後、現代仮名遣いに変えられた。
 
 筆者の共鳴句は次の通り。

007 玉虫を包むハンカチになろうとは
012 牡丹雪へこたれそうな長電話
016 いちどきり雪をみし眼の雛しまう
019 夏の雲搭乗券を栞とす
042 泥の手をあげれば貝や風光る
046 配達人露のサドルを肘で拭く
048 黒髪は林檎の匂い朝のバス
048 鳥よりも鳥籠欲しき冬はじめ
052 チューリップからラグビーのパス始まる
054 行く夏のテレビのような窓ひとつ
056 さわやかに観音さまへ切る十字
103 花ふぶき段ボールめくわたしたち
106 豆ごはん懸賞品が届きたる
109 貝と居て旅行の気分夏の雲
122 福引の白が気の毒そうに出る(*)
125 球審の欠伸を見たよつばくらめ
129 雲が湧く揚羽もわれも可燃性

 いくつかを鑑賞しよう。まず(*)印の自選句とかさなった句から。

122 福引の白が気の毒そうに出る(*)
「気の毒そうに」が絶妙な表現。五等賞だろうか、申し訳程度の景品がついているのだろうが、「白」い玉が作者に気の毒だと思いながら出て来た、と書いた。それは作者の気持ちそのものでもあろう。もちろん、この残念感はささいなこと。ごくごく小さな期待がならなかったという、そんな些細なことまでを、俳句にしてしまうのだ。

007 玉虫を包むハンカチになろうとは
 思いがけず「玉虫」を拾った。余りにも奇麗なので、家へもって帰りたくなった。包むものがないので、ハンカチを使った。ハンカチの身になれば、まさか「玉虫」用に使われるとは思ってもいなかったであろう。自分もそうは思ってもいなかった。寓意を深読みする必要はなさそうである。122と同じく、「ハンカチ」や「白」い玉を擬人化し、主人公に仕立てながら、実は、自分の感情を述べている。

019 夏の雲搭乗券を栞とす
 良くあることである。共通経験があると、「あるある感」で戴いてしまう。機窓眼下には、目が痛くなるような、白い夏の雲が広がっている。搭乗券を栞として、しばし本を閉じ、目を休ませた。

048 黒髪は林檎の匂い朝のバス
 いつもの通勤バスであろう。今朝は黒髪の女性と乗り合わせた。朝シャンをしたばかりなのであろう、「林檎」の匂いがした。爽やかな秋である。この「林檎」は実物でないから、季語ではない、などと言うなかれ! 作者には、眼前に「林檎」が現れたのだ、と考えれば立派な季語である。

048 鳥よりも鳥籠欲しき冬はじめ
 何故「冬はじめ」なのか? 多分、もの寂しさが募る頃なのであろう。慰めに小鳥を飼いたいのだが、生きものは難しい。だが、鳥籠だけなら、死なすこともないし、インテリアにもなる。少し理詰めに解釈し過ぎたが、心情は分かる。身の回りに潤いが欲しくなる季節なのであろう……が、やや屈折した心理。

056 さわやかに観音さまへ切る十字
 以前、天草地方に旅したことがある。マリア観音があって、むかし、隠れキリシタンが十字を切ってお参りした。そう思ったが、違っているかも知れない。ひょっとして外国からの観光客だろうか? 観音像の前で、畏敬の念をあらわすため、理由なく十字を切ったのであろうか? 状況がよく分からないなりに、「さわやかに」という季語により、善意をもって解釈できる。

109 貝と居て旅行の気分夏の雲
 貝殻に耳を付けると海の音が聞こえる。旅にでも出たような気分である。そこは、白い「夏の雲」が浮かんでいる海岸である。いつか行った海岸であろう。上手い作品。筆者イチオシの句である。

129 雲が湧く揚羽もわれも可燃性
 自分も「可燃性」であるとは、良く言えた。ニヒルな作品である。兎に角、谷さんの作品は、予定調和的でなく、オリジナリテイがある。そして、けっこう奥深い。この句からは、命終までを考えさせられるから……。燃えたあと、「雲」になると言うのであろうか?

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