中井保江句集『青の先』

 中井保江さんは「船団」の会員。俳句を始めて16年でこの句集を出された(平成28年9月22日、ふらんす堂)。坪内稔典さんの紹介帯文、神野紗希さんの丁寧な栞が付いている。



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 自選の10句は次の通り。

  春満月シフォンケーキの背が伸びる
  種袋シャカシャカ鳴るやつ鳴らぬやつ
  薔薇の雨ドーベルマンが目を覚ます
  旅プランイルカ来ている夏座敷
  コスモスや直線曲線絡む恋
  月光浴して犀の角つやつやと
  星月夜星がこぼれてまりもまりも
  木版のわずかにずれて小鳥来る
  小春日を伸ばして巻けば卵焼き
  まごころを胸にホッカイロは背中に

 筆者(=栗林)も選んでみた。

012 風光る花泥棒は二人組
014 春寒し腰をほどよくパスタ茹で
016 涅槃西風血圧高めの閻魔様
019 春ショールかけてもらう時孔雀
026 花びらも数枚乗せてバス発車
028 集合は植物園の蝶のカフェ
029 種袋シャカシャカ鳴るやつ鳴らぬやつ(*)
030 春愁は圧縮パックに旅支度
032 タンポポの学校風になる練習
044 はつなつの再生ガラスにある気泡
046 葉桜やエコー画像に子の手足
074 汗なんかかきしまへんえ京女
074 雲の峰ナビとけんかをする男
076 片恋は金魚するっと抜けていく
077 ひまわりやたまには泣いていいんだよ
099 秋の蚊とヤツは話の腰を折る
113 月明かり温かき尿捨てに行く
123 秋の海みんな右向くバスツアー
128 路地のたび湖見えている小春かな
133 落ち葉踏む一番紅い葉封筒に
145 買ったもの忘れて帰る小春かな

 俳句ずれしていなくて、自由な感性で詠むのが「船団」のみなさんの特長だと思うが、中井さんの『青の先』も、自ずとその味が出ていると思う。(*)印の一句が重なったので、簡単に感想をのべると、

029 種袋シャカシャカ鳴るやつ鳴らぬやつ(*)
種袋にもいろいろあって、たしかに、振っても音のしないものもある。ただそれだけなのだが、何か大きなことを言ってやろうとする句でないところが、筆者の好みに合った。
 もう少し筆者の好きだった句を鑑賞しよう。

012 風光る花泥棒は二人組
「二人組」が上手い。「花泥棒は盗人ならず」ということが言われるが、恋人同士かもしれぬ二人組なら、なおのこと笑って許せる。

030 春愁は圧縮パックに旅支度
 軽くて明るい句柄の中井さんだが、「春愁」をたまには感ずるのだろう。だが、楽しい旅だから「春愁」はしばし「圧縮パック」に押し込んで持って行こう、と考える。「圧縮パック」という新しい素材が上手く俳句に使われた。旅への楽しさを自分で演出しようとする気持ちに好感をもった。

046 葉桜やエコー画像に子の手足
 最近はエコー画像で胎児の性別がわかる。手や足が見えると、愛おしさが一段と増してくる。「葉桜」とあるから、夏に向かってすくすくと成長しつつある様が分かる。

077 ひまわりやたまには泣いていいんだよ
 いつも明るい顔をしている向日葵。時には悲しいこともあるのだろうから、そんなときは泣いていいんだ、と言って聞かせている。自分への言葉なのかも知れない。いや、そうに違いない。

113 月明かり温かき尿捨てに行く
他の句に比べ、少し趣が違う。間違っているかも知ればないが、身内の方が病に臥せっているのかも知れない、と想像した。使った後の尿瓶は確かに温かい。夜、それを捨てに行く。妙にリアルに感じた。

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