春日石疼句集『天球儀』

 春日さんが句集『天球儀』を刊行された(平成31年3月31日、朔出版)。氏は20年程前から俳句を始められ、平成24年には、福島県文学賞正賞を授与され、翌25年には「小熊座」の同人となっておられる。福島市で医療にあたっておられる方である。
 序文は高野ムツオ「小熊座」主宰、栞は永瀬十悟氏と武良竜彦氏。



画像



 高野ムツオ12選は次の通り。

  ひとすぢの陰さびしけれ峡の雪
  老人の眼から禾出て豊の秋
  枝高く鳥の巣現れて冬来る
  墓踏んでげんげ田踏んで墓の前
  縞蛇の何故ここで死ぬ冬田道
  ふらここや聞こえぬやうに厭戦歌
  累々とあるはずの死や虫の闇
  水のごとき球体として椋鳥一群
  点されし原子炉煮ゆる泥鰌鍋
  羊水の記憶なけれど水母浮く
  鳥の道空に見えねど葛の花
  原発と野壺とありて草萌ゆる

 筆者(=栗林)の共鳴句は次の通り。(*)印は主宰選と重なったもの。

013 うすらひに光剥ぐ音ありにけり
019 囀は咽喉を見せ合ふ極みまで
021 吾に入り吾を出でゆく花吹雪
027 人動く方へ人ゆく蛍の夜
032 水母群る月光の子を孕まんと
035 穴無数遺し八月十五日
039 宇宙より見し半分は虫の闇
046 冬籠まだあたたかき骨壺と
047 行く年や父の部屋から爪切る音
053 雪しまき乳房かならず熱を持つ
070 会葬の礼まつさきに暑さ詫ぶ
077 定住漂泊湯たんぽに注ぐ音太く
078 米研げば光のなかを春の雪
080 三月は無きが如くに終はりけり
087 声なき吶喊探照灯へ雪しまく
090 ふらここや聞こえぬやうに厭戦歌(*)
096 若き死の爪先までも冬木の香
115 夭折のいまも涼しき目元して
121 皇族は俳諧詠まず冬鷗
125 歳時記に亡き人ばかり虎落笛
125 一村は同じ命日春時雨
128 花冷えの花の夕暮症候群
129 近づけば人語聞こゆる夜の桜
134 冬瓜やギリシャの神は妻恐れ
135 胎児まだ勾玉に似て星月夜
144 記憶とは一代限り柳絮飛ぶ
144 死者の名の五十音順花の冷
152 たかが百四十億年星流る
154 幼霊のひとり綾とり秋の浜
164 遠吠えの狼の眼に火の記憶
164 糠床の蓋ずれてをり建国日
174 鳥の道空に見えねど葛の花(*)
178 堆く土竜が残す初景色
189 不知火海に声あるならば夜の蟬

一読の印象として、春日さんの句のテーマ、モチーフは重い。そして真剣である。実は、筆者も「小熊座」に所属していて、近く句集を出したいと願っているのだが、その中身は「遊び」が多く、とても『天球儀』のようなわけには行かなさそうである。福島だから、原発事故が多く詠われている。仕事柄、人の生死の句もある。しかし、中には〈013 うすらひに光剥ぐ音ありにけり〉〈032 水母群る月光の子を孕まんと〉〈078 米研げば光のなかを春の雪〉のような詩情豊かな叙物句もある。また、

135 胎児まだ勾玉に似て星月夜
164 遠吠えの狼の眼に火の記憶
189 不知火海に声あるならば夜の蟬

などは、ロマンに富み、筆者の好みに合った佳句だと喜んでいる。下手な鑑賞はやめておこう。ただ(*)印の2句だけは、少し触れておきたい。

090 ふらここや聞こえぬやうに厭戦歌(*)
この句は、主宰、永瀬氏、武良氏の三方ともが抽いている。ブランコに乗りながら、作者は「厭戦歌」を歌っている。ただし、「聞こえぬやうに」である。そこに屈折がある。大声で歌うのなら、「詩」にならない。だからこの句は「聞こえぬやうに」で顕った句となったと思う。腹の底に反戦・厭戦が信念としてあるのである。

174 鳥の道空に見えねど葛の花(*)
この句も三氏がこぞって掲げている。飛行機が高空を飛ぶとき、軌跡が見える。海上だと、船には水脈が見える。しかし、鳥が飛んで行くあとには軌跡は残らない。いや、そうではなくて、決まって通るはずの「鳥帰る」道も、「鳥渡る」道も、空にあるはずなのだが、見えない。だが、あやまたずにその道を通って行くし、帰ってくる。大地には、「葛の花」が咲いている。やや深い意味を持った「葛の花」が効いているように思う。ふと、飯島晴子の名句〈葛の花来るなと言つたではないか〉を思い出した。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック