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zoom RSS 辻村麻乃句集『るん』

<<   作成日時 : 2019/03/14 08:19   >>

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 辻村さんが第二句集『るん』を上梓された(平成30年7月31日、俳句アトラス刊行)。辻村さんはご母堂岡田史乃「篠」主宰の娘さんで、ご自身は同結社の編集長でもある。父は詩人の隆彦氏。また、岩淵喜代子氏の「ににん」にも属されておられ、その関係で岩淵さんは跋を書かれている。序文は筑紫磐井氏。


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 『るん』の辻村さんの自選句は次の通り。

  出会ふ度翳を濃くする桜かな
  春嶺や深き森から海の音
  燕の巣そろそろ自由にさせようか
  谷若葉詩の立つ瞬間摑みけり
  姫蛍祠に海の匂ひして
  正座せし足の黒子に夏日さす
  蛇の目を映す少女が歪みをり
  鳩吹きて柞の森にるんの吹く
  夜学校「誰だ!」と壁に大きな字
  鮭割りし中の赤さを鮭知らず
  おお麻乃と言ふ父探す冬の駅
  冬霧の三ツ鳥居より蜃に会ふ

 筆者(=栗林)の共鳴句は次の通り。(*)は自選と重なった。桜(015の二句)、ポピー(062)、まくなぎ(077)、曼珠沙華(114)など、特有な美意識を持った人と思われる作品が見られた。

015 一斉に川に引かるる桜かな
015 出会ふ度翳を濃くする桜かな(*)
022 添へる手の生々として官女雛
035 家ありてなほ寂しからむ春の暮
062 紙風船破いたやうにポピー咲く
070 母留守の家に麦茶を作り置く
077 まくなぎの飛び立つ長き睫毛かな
091 黒揚羽駿河縹に嵌りたり
094 口開けし金魚の中の赤き闇
114 日本地図能登を尖らせ秋麗
114 楊貴妃の睫毛の如く曼珠沙華
124 鮭割りし中の赤さを鮭知らず(*)
124 金管の全て上向く秋の空
139 柏手の響く社や実南天
167 冬ざれや男に影がついてゆく
170 冬天を吊り下げてゐる秩父橋

 自選と重なった(*)印の作品二句をまず鑑賞しよう。

015 出会ふ度翳を濃くする桜かな(*)
 不思議な句である。一般に桜は葉が出ないうちに咲き始める。だから咲きはじめは空の明るさを妨げない。同じ桜の木に出会うたび、花が盛んになり、全体が明るくなるのだが、木の下に立てば、陽の光を遮ってしまうほどとなる。少し理詰めに読みすぎたかもしれないが、だから、花の盛りがかえって「翳」を帯びるという感受はありえる。そして、それは平凡な感受ではない。

124 鮭割りし中の赤さを鮭知らず(*)
 秋味を裂くと、身は明るい朱色に光る。割かれた鮭はそれを知らない。当然のことではあるが、このことは案外多くのことに通じる。魚や動物だけでない。人間でも本当の自分の中身を知らない。自らを腑分けし、客観的にそれを眺めているような錯覚を覚える。鋭い句。

 筆者が共鳴した句も鑑賞しよう。

015 一斉に川に引かるる桜かな
 川に沿って桜が満開である。いや、もう散り始めている。川面に桜の花びらが飛んで花筏となって流れていく。さらに風が吹いて、飛花が花筏にそのまま繋がって引かれて行くようだ。筆者は何故かこの句から澁谷道の〈馬駈けて菜の花の黄を引伸ばす〉を思い出した。菜の花畑を駈けて行く馬。黄色の帯が馬の走る方向へ引かれて伸びてゆく。映像的・視覚的な句である。師の平畑静塔をして、「あなたは俳句開眼しましたね」と言わしめた作品であった。この句にも同じ感銘を覚えた。

070 母留守の家に麦茶を作り置く
 ほっとする日常詠。このような作品を読むと、母娘の仲まで見えてくる。「麦茶」の句では、星野椿さんの〈欲しいときすつと麦茶の運ばるる〉を思い出し、いい気持になる。この句もそんな効果がある。

094 口開けし金魚の中の赤き闇
 124の句と同じ嗜好がある。金魚の口の中が、ただ赤い、と言ったのでは詩にならない。「赤き闇」と言って、「闇」の象徴性によって一句が成立した。跋で岩淵さんもこの句を挙げていた。

124 金管の全て上向く秋の空
 爽快な秋の屋外。ブラスバンドの野外演奏会であろう。奏者が金管楽器を一斉に上に向けて演奏する瞬間を切り取った。碧空が見える。気持ちの良い句。

 楽しい句集を有難う御座いました。

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