宇多喜代子句集『森へ』

 宇多喜代子さんが第八句集を上梓された(平成30年12月7日、青磁社刊行)。
 宇多さんは、前々現代俳句協会の会長であられ、蛇笏賞も受けられた超著名な方。4年前には『宇多喜代子俳句集成』を出されておられる。


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 自選には次の10句が掲げられている。

 一瞬が一瞬を追う雪解川
 樟落葉肩打つ膝打つわが戦後
 寒天に置く月一個と定めたり
 中空におおきな螺旋朴落葉
 ふくろうのふの字の軽さああ眠い
 白梅やこの家の百年二百年
 十二月八日のかたちアルマイト
 生きていること思い出す夏座敷
 蛇の手とおぼしきところよく動く
 日光月光ここまでは来ぬ弾礫

 筆者の共鳴・感銘句は次の通り。

008 夏近し双耳にこもる雨の音
009 夏落葉降るや起ちても座りても
013 盆波の音を畳に聞く夜かな
015 青空の奥に青空春日燦
016 秋日濃し猫の形に猫の影
018 太陽一つ蜜柑の一つ一つかな
024 初夢の縁者こぞりて吾に向く
031 梅雨鯰永田耕衣に似てにんまり
032 短夜や生涯木の家より知らず
035 秋彼岸形見の時計遅れがち
038 二人入り二人出てくる芒原
043 朝な夕な風に色なき屋根瓦
045 寒や寒や星の近づく気配して
050 水分の神か真白に草氷柱
051 頭が溶けて前衛風に雪だるま
054 白足袋の白にこころを従えて
059 梟を見る固肘を張りつめて
060 朧夜の戦車は蹲るかたち
067 しかすがに吉書にえらぶ喜の字かな
072 対岸に用あるらしき鴨の首
075 新聞が新聞紙となる春の夜
077 子猫抱きかたむき歩く女の子
081 三輪山の木の芽まみれの和田悟朗
094 いささかの艶を残して鰯干す
095 草の実のとりつく者らみな敗死
106 細胞の話ふくらむ秋の暮
110 囚われの熊より怖し檻の柵
114 柄の長き傘が荷となる年の市
120 一族に赤ん坊のいる三が日
122 年末に年始に役にたつ手足
127 木の家のおおきな窓の朧月
129 片栗の花のかたまる深謀あり
150 どんぐりの三つ四つが荷となりぬ
151 蛇の手とおぼしきところよく動く(*)
153 蜻蛉によくよく見えて過去百年
165 鍋釜の触れ合う音も初昔
167 まかり出てただの鴉が初鴉
170 こんなにも健やかな死や冬日和

 幾つかの句について、感じたことを短く書かせて戴こう。

151 蛇の手とおぼしきところよく動く(*)
 宇多先生の自選と重なった句。蛇に手があるとすれば、首に近いところに違いない。そう思うと、蛇の動きがその辺りが一番激しいような気がする。本当かどうかは自信がないが、……。

032 短夜や生涯木の家より知らず
127 木の家のおおきな窓の朧月
 宇多先生は木の家にお住まいなのだろうか。古くからの木造家屋への愛着が感じられた。窓が大きくて、折から、朧月がかかっている。日本家屋は夏向きにできていると言われるが、春も秋も風情がある。「木の家」と「朧月」は絶妙な取り合わせ。コンクリート造りでなくてよかった。

114 柄の長き傘が荷となる年の市
150 どんぐりの三つ四つが荷となりぬ
 年の市で買い物をすると、いままで持っていた傘が邪魔になった。団栗の句の方はそうではないが、団栗を持つという非日常性が心理的な意味での「荷」だという。

075 新聞が新聞紙となる春の夜
 新聞は情報を齎すものだから、紙以上のもの。夜までには大抵読み終わるから、読み終わった新聞はただの物質としての「紙」となる。夜になって、新聞紙を拡げて、その上で何か作業をしているのかも。言い得て妙。筆者(=栗林)イチオシの句。

077 子猫抱きかたむき歩く女の子
 この「かたむく」の描写が見事だと感じ入った。子猫の抱き方もかたむいているし、少女の歩き方も傾いているに違いない。「歌舞伎」は「かたぶく」が語源らしいが、この女の子はなにかユーモラスで変わった歩き方なのかも。

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