坂口昌弘『毎日が辞世の句』

 坂口さんが表記の書を出された(東京四季出版、平成30年6月20日刊行)。早速、読ませて戴いた。どんな俳人がどんな辞世句を遺しているのか、以前から興味を持っていたので、一読して大いなる感銘を戴いた。


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 目次と本文から対象俳人の行年と辞世の句を拾ってみた。該著には俳人でない方が若干名含まれているが、ここでは俳人にのみ絞って掲げる。行年と逝去西暦年も掲げておいた。恐らく多くの読者も、誰がどんな辞世の句を遺しているのか、興味があるに違いない。

井原西鶴  52  1693  浮世の月見過しにけり末二年
松尾芭蕉  51  1694  旅に病で夢は枯野をかけ廻る
与謝蕪村  68  1716  しら梅に明る夜ばかりとなりにけり
小林一茶  65  1827  生身玉やがて我等も菰の上
夏目漱石  49  1916  人に死し鶴に生れて冴え返る
正岡子規  35  1902  糸瓜咲て痰のつまりし仏かな
高浜虚子  85  1959  春の山屍をうめて空しかり
飯田蛇笏  77  1962  誰彼もあらず一天自尊の秋
杉田久女  55  1946  鳥雲にわれは明日たつ筑紫かな
水原秋桜子 88  1981  紫陽花や水辺の夕餉早きかな
川端茅舎  43  1941  朴散華即ちしれぬ行方かな
橋本多佳子 64  1963  雪はげし書き遺すこと何ぞ多き
三橋鷹女  72  1972  秋蟬やうばすて山に姥を捨て
永田耕衣  97  1997  枯草の大孤独居士ここに居る
中村草田男 82  1983  折々己れにおどろく噴水時の中
山口誓子  92  1994  一輪の花となりたる揚花火
加藤楸邨  88  1993  青きものはるかなるものいや遠き
能村登四郎 90  2001  行く春を死でしめくくる人ひとり
石田波郷  56  1969  今生は病む生なりき烏頭
桂 信子   90  2004  いつ遺句となるやも知れずいぼむしり
森 澄雄   91  2010  行く年や妻亡き月日重ねたる
佐藤鬼房  82  2002  明日は死ぬ花の地獄と思ふべし
野澤節子  75  1995  牡丹雪しばらく息をつがぬまま
飯田龍太  86  2007  山青し骸見せざる獣にも

 該著には、対象俳人の一生が要領よく纏められており、しかも坂口さんの独自の観方(老荘思想や原始的アニミズム)からの論の展開が見事である。

一方、巻末には「最期の言葉」として、上記には含まれていない多くの文人の辞世の言が載せられている。中から俳人のみに絞って、辞世の句を選んで掲げよう。

芝不器男  26  苔の雨かへるでの花いづこゆか
石橋秀野  38  蟬時雨子は担送車に追ひつけず
日野草城  54  うしみつにわが咳き入りて妻子覚む
小野蕪子  54  人はみな火の上に生き菅刈れり
萩原朔太郎 55  行列の行きつくはては餓鬼地獄
角川源義  58  月の人のひとりとならむ車椅子
石田あき子 59  一流星生きよといのち灯さるる
高柳重信  60  おーいお―い命惜しめといふ山彦
西東三鬼  61  春を病み松の根つ子も見飽きたり
齋藤 玄   65  死が見ゆるとはなにごとぞ花山椒
井上井月  65  何処やらに鶴の声聞く霞かな
原 石鼎   65  松朽葉かからぬ五百木無かりけり
泉 鏡花   65  露草や赤のまんまもなつかしき
秋山巳之流 66  秋時雨楽しきときも希にあり
相馬遷子  67  冬麗の微塵となりて去らんとす
松瀬青々  67  月見して如来の月光三昧や
岸田稚魚  70  死ぬること幸ひ銀河流れをり
良 寛    72  うらを見せおもてを見せてちるもみち
柄井川柳  73  木枯や跡で芽をふけ川柳
秋元不死男 75  ねたきりのわがつかみたし銀河の尾
大野林火  78  萩明り師のふところにゐるごとく
五所平之助 79  花おぼろほとけ誘ふ散歩道
永井荷風  79  余死する時葬式無用なり
星野立子  80  春寒し赤鉛筆は六角形
志摩芳次郎 81  緑なす松やいのちの惜しからず
山本健吉  81  こぶし咲く昨日の今日となりしかな
澤木欣一  82  病む我に白曼珠沙華たくましく
高野素十  83  わが星のいづくにあるや天の川
加藤郁乎  83  神を拝し愁眉をひらく花明り
横山白虹  84  身について近き点滴遠き秋嶺
神沢杜口  86  辞世とは即迷ひ唯死なん
山口草堂  86  散る花の宙にしばしの行方かな
中村苑子  87  音なく白く重く冷たく雪降る闇
葛飾北斎  88  人魂で行く気散じや夏の原
中村汀女  88  春暁や今はよはひをいとほしみ
原コウ子   92  夫のなき女いつまで生賜ふ
富安風生  93  九十五齢とは後生極楽春の風
山口青邨  96  願事のあれもこれもと日は永し
金子兜太  98  犬も猫も雪に沈めりわれらもまた
日野原重明105  百四歳 長い道にも まだ何か

 渾身の労作であった。自分ならどんな句を遺すであろうか。まだ見当もつかない。多くの先達が、偉大な仕事を成したうえで、今の筆者(=栗林、この9月で80歳)よりお若くして亡くなられている方々が多いことに衝撃を覚えたのであった。

 これらの俳人の辞世の句に至った背景、業績など、ぜひ該著に当たって読まれることを、皆様にお勧めしたい(四六判、全267頁、東京四季出版042-399-2180、2000円+税です)。

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