河西正克句集『無一物』

 河西さんは、「笹」主宰の伊藤敬子さんに師事。平成25年に「笹」賞を貰っている。第一句集は『八ヶ岳』で、この句集『無一物』は第二句集に当たる(平成30年4月25日、角川文化振興財団刊)。
 序文は伊藤敬子主宰。帯に〈甲斐駒はけぶりて遠し紫木蓮〉をかかげ、「一句一句の背景に、名峰の美しい姿と作者のかかわり、心の通わせ合い、そして雄大な自然に啓発されてゆく人間の詩心のありようがしっかりと描かれている」とある。


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 自選12句は次の通り。

  閑居して八ヶ岳はそびらに寒明くる
  春蘭に雲の囁く夢見山
  堅香子の群れて里山どつと春
  真清水に影を落として九輪草
  夕蛍身籠りし母古希知らず
  夏瘦せの背に滲みたる孤愁かな
  花芒活けて織部の黒茶碗
  秋夕焼視界に余る白根嶽
  桐一葉葡萄酒醸す古き蔵
  冬霞忍野八海水無尽
  戒名を貰ひ俳句を詠む小春
  一月の山裂帛の気を吐けり

 筆者(=栗林)も早速読ませて戴いた。琴線に触れた句を掲げておこう。

 この句集は、巻頭の句
015 初冨士や裳裾に纏ふ茜雲
で代表されるような、端正な山岳叙景句が多い。一読して、気持ちが晴れそうな句である。この句のような素晴らしい環境に河西さんはお住まいである。もっとある。例えば、

021 春寒の晩鐘山に衝き当る
029 どこからも高嶺の見ゆる春うらら 
034 菜の花や川面に残る水明り

など、美しい風土詠が続く。勿論、人や仏も時々顔を出す。

023 耳朶長きみほとけ在す春野かな
046 風薫る村に歌舞伎の名子役
047 白地着て背筋伸びたる心地かな
081 笑み深き枯野の仏無一物

この句集の表題はこの句081から採られた。

 珍しい句にも出会えた。
129 熊の胃を乾して山里寒明くる

 次の一句は、河西さんの心寧けき日々の暮らしを詠んでいるように思えた。
178 羅の袂にしまふ樹下の風

 氏は間もなく米寿を迎えられる。甲斐の風土の中で、末永く悠々とご健吟を……と願っている。




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