西村麒麟句集『鴨』

 西村麒麟さんが第二句集を出された(平成二十九年十二月二十四日、文學の森)。氏はこの出版社の催行する俳句新人賞「北斗賞」をこのほど受賞した。また、石田波郷賞、芝不器男新人賞「大石悦子賞」、ふらんす堂の田中裕明賞も、立て続けに受けている気鋭の若手俳人である。結社は長谷川櫂の「古志」に所属している。筆者は、以前ぶらりとお邪魔した東大俳句会でお会いしたこともある。


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 自選10句は次の通り。

侍の格好でする鏡割
烏の巣けふは烏がゐたりけり
灯を提げて人美しき祭かな
禁酒して詰まらぬ人として端居
柄の長き奈良の団扇を秋にまた
鴨流れ次の一羽もまたゆるく
マンゴーに喜び月に唄ひけり
少しづつ人を愛する金魚かな
何の鮨あるか見てゐる生身魂
金沢の見るべきは見て燗熱し

 日常の感興、気付きといったものを、平易な言葉で書いている。分からない句は殆どなく、写生の目が効いており、発見がある。それでいて、トボケた俳諧的な味のある句も多い。

 筆者(=栗林)の共鳴句は次の通り。(*)は自選句と重なった。

005 獅子舞が縦に暴れてゐるところ
006 二家族同時にわつと初笑
006 侍の格好でする鏡割
016 尾道の光の海も春ならん
020 手を振つて子どもと大人春の風
020 ぷつぷつと口から釘や初桜
021 火が見えてそこに主や花の寺
029 灯を提げて人美しき祭かな(*)
036 二人ゐて長さの違ふ蠅叩
039 蜘蛛の巣に蜘蛛より大きものばかり
042 鯖鮓や机上をざつと片付けて
043 夕立が来さうで来たり走るなり
051 炎昼や地図をくるくる回しつつ
059 加賀らしく雨となりたる秋祭
064 盆唄に絶頂のあり佃島
071 蟋蟀の影より黒くゐたりけり
071 虫籠に足音軽きものばかり
072 けふの月下からぽんと押され出て
081 角隠し松の手入に見られつつ
088 冬の日や東寺がいつも端に見え
091 焚火して宇宙の隅にゐたりけり
094 学校のうさぎに嘘を教へけり
095 筋肉を綺麗に伸ばす冬休み
098 鮟鱇の死後がずるずるありにけり
098 鶴鳴くやどの名で呼べど振り向かず
102 金屏の江戸はもくもく雲浮かべ
121 鉄線の蔓が渋々巻くところ
125 ぼうふらの音無けれども賑やかな
126 草刈機折り返し又来たりけり
131 墓石は金魚の墓に重からん
135 ブータンに綺麗な王や籠枕
136 かぶと虫くはがた虫と同じ墓
142 紙鍋は静かな鍋や天の川
150 小さき墓ばかりや秋の海が見え
151 持ち上げて投げては稲架となりにけり
157 猪の顔の走つて来たりけり
163 ゆく秋や信濃の山が酒の名に
169 蔵一つ凍らせて行く雪女
170 白鳥の看板があり白鳥来

 若い俳人には「かな」や「けり」を忌避する傾向があるように思うのだが、麒麟さんは多用している。しかし、句柄は硬くない。むしろゆる目の表現が面白い味を出している。幾つかを鑑賞しよう。鑑賞と言っても難解句はないから、筆者がどう感じたかのみを書いてみよう。

005 獅子舞が縦に暴れてゐるところ
006 侍の格好でする鏡割
 これらは、対象をよく見て感じ取った事実を素直に書いた句群の代表例である。面白く書かれていて、しかも納得性がある。005は獅子舞が獅子の頭を上下に激しく振っているさま。「縦に暴れ」の描写が生きている。
006の「鏡割」は鏡開きのことであるが、酒樽を開けることにも通ずる。餅でなく酒樽だとすると、季語的でなくなるのだが、いずれにしても、侍が刀を大上段に構えると同じように、木槌を振り上げるさまが目に見えて来る。

121 鉄線の蔓が渋々巻くところ
「渋々」と「ところ」という措辞が面白い。005の「暴れてゐるところ」もそうだったが、筆者は高野素十の「鳥の巣」の句を思い出した。このゆるい表現が雰囲気を出している。この句集には、そのような句柄の句が沢山ある。それが麒麟さんの魅力でもある。

021 火が見えてそこに主や花の寺
 ゆるい表現と言ったが、この句も「そこに」がゆるい措辞である。しかし、それは批判ではなく、褒めている積りである。この言葉によって、なんとなく俳諧的なムードが醸し出されるのである。

016 尾道の光の海も春ならん
029 灯を提げて人美しき祭かな(*)
059 加賀らしく雨となりたる秋祭 
150 小さき墓ばかりや秋の海が見え
 巧まない叙景句である。やや古い感覚だが、田中裕明ばりの句。筆者が好きなタイプの句群である。俳句の中道、いや本道を行く感じ。

042 鯖鮓や机上をざつと片付けて
 仲間が、「鯖鮓」を土産に職場に帰ってきたのであろう。さっそく机の上を片付けて土産を開き、みなで賞味しようとする。期待が膨らむ。酒かビールもあるのだろう。飲めないものはお茶を入れる準備をする。「ざっと」でスピード感が出た。

072 けふの月下からぽんと押され出て
 月が「下からぽんと」押し出されたとは、珍しい表現。だが、納得性がある。きっと満月に違いない。

088 冬の日や東寺がいつも端に見え
 新幹線で京都駅に着くと、東寺が見える。上りなら後方右手に、下りなら前方左である。いずれも車窓の端にある。何でもない気づきが句となる典型例である。先ほどは、田中裕明似の句があると言ったが、これは岸本尚毅似であろうか。

098 鮟鱇の死後がずるずるありにけり
 我々が魚屋で目にする「鮟鱇」は、鍋用に刻まれてパックで売られているのがほとんどであるが、大きな魚市場では一匹ものが並んでいる。でも、死んだものばかり。一匹もので買われた鮟鱇は、それからの色々な処置が「ずるずる」と続くのである。吊し切りされたり、肝を丁寧に取られたり、鍋用に刻まれたり、手間暇をかけるのだ。「ずるずる」は鮟鱇の質感とも合っていて、納得できる。「死後がずるずる」が上手い表現。

102 金屏の江戸はもくもく雲浮かべ
 この金屏風には絵巻が描かれているのだろう。この類の絵巻にはかならず「雲」が描かれ、その隙間から「江戸」なり市井の様子なり、合戦絵巻なら合戦なりの景が俯瞰されるように描かれているのだ。かなり上手い句である。

169 蔵一つ凍らせて行く雪
 雪女の句は多い。あり過ぎるほどだ。がしかし、雪女が蔵を凍らせた句は、寡聞にしてお目にかかっていない。これまで見て来た麒麟さんの作品は、実景あるいは事実に基づいたものだったが、想像の世界を含め、色んな味の句が書ける作家である。



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