同前悠久子句集『枝垂れの桜』

 同前さんは、俳歴40年ほどの方。「琅玕」「狩」を経て現在「ににん」(岩淵喜代子主宰)に所属している。刊行はふらんす堂、平成29年11月3日。
 序文は岩淵さんが書かれている。帯には印象鮮明な一句〈緑青の屋根に枝垂れの桜映ゆ〉が抽かれている。


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 自選十句は次の通り。

  一輪を落として誘ふ沙羅の花
  秋の虹見たくて芝を踏む素足
  緑陰へメナムの河の風誘ふ
  糸ざくら触るれば指もくれなゐに
  七五三その肩揚のふくらみの
  今宵ジャズは発酵す味噌造る蔵
  白魚やひらかな草書泳ぎたり
  椎の実を拾ひしわれら主人公
  舞妓はんに道尋ねゐる実南天
  百合鷗飛びくる街に五十年

 筆者(=栗林)なりの共鳴句をいくつか選んで鑑賞する。(*)印は同前さんの自選と重なったもの。

015 秋の虹見たくて芝を踏む素足(*)
017 籠り日の続くこの頃青ゑんどう
026 合掌の笑み涼しげにドア・ボーイ
034 両岸の桜の中を舟で行く
048 沙羅芽吹く携帯電話換えたき日
054 新婚の貧しさ眩し冬の湖
067 七五三その肩揚のふくらみの(*)
088 絵扇やちらりと赤の見え隠れ
089 道後駅天井四隅に燕の子
100 春の雨珈琲の香も神戸らし
132 珈琲に橡の実煎餅添へらるる
143 水撒くは白き花咲くこの木から
152 舞妓はんに道尋ねゐる実南天(*)
170 山笑ふ三食違ふ薬の名

015 秋の虹見たくて芝を踏む素足(*)
 自選句と重なった。誰かに「虹が出ているよ、早くおいで」と言われたのであろう。秋の虹は色淡く、消えやすい。庭下駄がなかったので、素足のまま芝生の庭に急いだ。きっと見えた筈だ。一回性の巧まぬ作品である。

017 籠り日の続くこの頃青ゑんどう
「青ゑんどう」が効いている。外出が億劫になっているこの頃、庭に植えた豌豆が莢を付け、元気に育っているのを発見した。気分爽快。ちょっと外出したくなる気分。

026 合掌の笑み涼しげにドア・ボーイ
 タイのバンコクでの景。国民が総仏教徒と言っても良いほどの国。挨拶には「サワディ」と言って合掌をするのが習慣。チップでもあげようかと思うほど。

054 新婚の貧しさ眩し冬の湖
 同前さんは80歳を越えられた方。新婚の頃は日本国民みな貧しかった。新婚旅行に湖のある名所を訪ねたのかどうかは分からないが、いま、眼前に静かに光っている湖面を見ながら、昔を回顧している。「貧しさ」を「眩しい」と言えるのは幸せ。納得できる句。

067 七五三その肩揚のふくらみの(*)
 これも自選句と重なった。下五を連体形で緩やかに止めた。そのせいで「肩揚」の「ふくらみ」に余情が生まれる。七五三の主人公は、多分、少女で七歳。

100 春の雨珈琲の香も神戸らし
 神戸の喫茶店で珈琲を戴いた。勿論、淹れたてである。さすが異国情緒ある「神戸」である。同前さんは「かな拒否派」ではないと思うので「神戸かな」もありかなと思ったが、どうでしょうか。同じことは〈緑青の屋根に枝垂れの桜映ゆ〉にも言える。筆者は「桜かな」派である。「らし」とか「映ゆ」といった叙述をさけたいためであるが、好みの問題か? 

152 舞妓はんに道尋ねゐる実南天(*)
 京都で舞妓さんに道を尋ねた。ただそれだけだが、その場にあった「実南天」を配合して成功した。一回性の俳句の面白さであろう。

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