大牧広『シリーズ自句自解Ⅱベスト100』

 大牧広「港」主宰が表記の自句自解シリーズを出された(平成29年10月23日、ふらんす堂)。永年にわたる氏の句業を俯瞰するにはもってこいの著書である。


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 筆者(=栗林)にとっての懐かしい句、あらためて琴線に触れた句などを、10数句に絞って掲げる。頭の数字は同著の句番号。

002 もう母を擲たなくなりし父の夏
070 正眼の父の遺影に雪が降る
 大牧さんの文に「父は、私の知る限り決して晩年は恵まれていなかった。それというのも父は短気で、もみ手などしてまで、上手に世渡りをする人ではなかった。母にも私たちにもすぐ手を上げた」と書いている。002は老境の父。070は正眼の遺影。大牧さんは、短気ではないと思うが、大牧さんの句柄一般からは、このお父さんの血を色濃く受け継いでいるように思える。つまり、良い意味での反骨の人だと思う。

012 春の海まつすぐ行けば見える筈
「港」を創刊したときの思い。「何年続くか」との陰口もあったようで、ただひたすら真っ直ぐ行けば……との想いで、30年を過ごしてきた。

013 秋風の大牧の地につひに立つ
 自分と同姓の地があったとして、そこを訪れると、なにか産土感覚とでもいうべき感慨が沸いてくる。誰にでも通ずる句、同感の句。

018 目刺より抜く一本のつよき藁
022 煮凝にするどき骨のありにけり
 食べ物に拘わる句。だが、単純な句ではない。「一本のつよき藁」「するどき骨」に、モノを通しての大牧さんの問題意識を見る。

032 炭はねし朝や大本営発表
066 青岬本土決戦悟りし日
068 進駐軍の尻の大きさ雁渡る
084 冬木立貝になりたい人ばかり
 戦争に係る句を挙げた。032、大本営発表はまさに組織的フェークだった。066、敗戦数か月前には、本土決戦を覚悟させられたものだった。「一人一殺」を唱え、海岸べりに大砲を擬して「臼」を並べ、町内会では銃剣術や竹槍の練習をした。068、厚木に降りたマッカーサーの威容とコーンパイプ、進駐兵一人一人の大柄なこと。こんな敵と戦っていたのだった。084、フランキー堺の映画を思い出す。本土でゆえなく戦犯として処刑された人の話だった。彼は、処刑の日を前に「もう人間には二度と生まれてきたくない。生まれ変わるなら、深い海の底の貝になりたい」と遺書を残すのだった。

055 洞窟に似し一流の毛皮店
 アイロニーの利いた句。豪奢な毛皮を買う人たちへの批判も交じっていよう。いかにも大牧さんらしい。

059 冷麦を数回すすりどつと老ゆ
 86歳の大牧さんだから、当然、老いの句も多い。「どっと老ゆ」が上手い。095に、〈老後とは言葉減りゆく蜩よ〉もある。

083 初句会たたかふ俳句欲しかりき
 先述の通り、大牧さんは良い意味で反骨の俳人である。特に反戦。だから初句会とはいえ、めでたく能天気なのは好まないのであろう。

089 難解句であればよいのか蜘蛛に聞く
 よくぞ言ってくれた。難解なのが高度なのだという思いは間違いである。たんなる一人解かりの句に過ぎないのである(と筆者=栗林は思う)。難解句に遭遇して、解らない自分を「凡人」だと卑下することはない、と筆者も自分に言い聞かせている。

 有難う御座いました。

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