衛藤夏子 俳句とエッセー『蜜柑の恋』

 衛藤さんは「船団」のメンバーで、この度上梓された『蜜柑の恋』はショートエッセイに俳句を100句ほど添えてある。うち10句にはやや長い自解が添えられている。帯には、坪内捻典さんが「なっちゃん(夏子)は自然体、そしてちょっとした幸せにとても敏感だ」とある。


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 俳句100句の中から、筆者(=栗林)の共鳴した20句を掲げよう。

011 春の空おひとりさまに広すぎる
013 ビキニ買いメロンを買ってでもひとり
015 大切な人だと言われ胡瓜もむ
017 鉛筆を削れば夏の去る匂い
020 またひとつ露草ほどの恋をして
025 マンボウの卵三億春近し
051 眠剤の数かぞえてる今朝の秋
053 点滴の音の広がる夜長かな
054 かもめかもめだんだん薬増えてくる
057 待つ患者聞き耳立てて春隣
058 注文の多い患者や辛夷咲く
059 春愁うトローチの穴おおきくて
064 劇薬の添付文書に西日入る
085 ふらここをひとりで漕いで日の暮れて
090 目薬をプールにたらす午後六時
091 カルピスと紺の水着の少女の日
094 無花果を頑固親父と分け合って
098 触診の指しんしんと雪催
099 湯を沸かすほどの恋してクリスマス
134 秋白しウクライナでも秋白し

 小説と映画好きの女性といえば、とうぜん恋も詠むであろう。右に挙げた句群は、若い女性の孤独をごく私的に詠んだものと言えよう。だが、生業が薬剤師と聞くと、なるほどと思える句が見つかる。句意はごく平明ではあるが、ちょっとしたエスプリもある。たとえば、

051 眠剤の数かぞえてる今朝の秋
053 点滴の音の広がる夜長かな
054 かもめかもめだんだん薬増えてくる
057 待つ患者聞き耳立てて春隣
058 注文の多い患者や辛夷咲く
059 春愁うトローチの穴おおきくて
090 目薬をプールにたらす午後六時

054は、毎月薬を取りに来る患者さんを詠んだものであろう。059は軽妙。ほんとうにトローチの穴は大きい。早く溶けるための工夫であろうか。また、最後の句090は意味深長である。アンニュイと読むか、何か大それたことをしてしまわないための行為なのだろうか? 作者の妖しい心影を思う。
 面白く読ませて戴いた。

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