九条道子句集『薔薇とミシン』

 九条さんは戸恒東人主宰の「春月」の春星集同人で、『薔薇とミシン』は第一句集(平成29年9月15日、雙峰書房刊)である。題名は、九条さんがミシン商会を営んでいることと、ご主人の遺愛の薔薇園を大切に受継いでおられることに因んでいる。日常吟や旅吟を中心に、自分史のつもりで詠んだ句群からなっている。ご高齢のご母堂がお元気なうちに上木したいと思って出した、とあとがきに書いてある。市井の熱心な俳句愛好家のごく上質な第一句集であるといえる。
 序文は戸恒主宰、跋文は原田紫野さん。

画像




 自選句は次の通り。

  薔薇の香や息子の連れし女客
  屠蘇祝ふビデオに動く亡父ゐて
  霧立ちてたちまち湖面失へり
  いつも吾捜しゐる母鳥曇
  今日の業終へて向き合ふ薔薇の門
  雪のヴェール冠る縄文杉仰ぐ
  寒満月夫と一つになりし影
  筑波嶺を渡る風容れ田水張る
  薔薇香る窓開け放ちミシン踏む
  将門の馳せし大地や空つ風
  白鳥来筑波双峰藍増せり
  昨日呑みし日輪を吐き冬の海

 筆者(=栗林)の共鳴句は次の通り。(*)は自選と重なった。

017 焚火の香指に残して薄化粧
019 薔薇の香や息子の連れし女客(*)
036 水温む硬さの合はぬ旅枕
050 脱ぐ靴の駆け込む形夏休み
068 白薔薇の純白といふ難しさ
070 嬰抱けば祭太鼓の遠くより
081 山女釣る夫のこだはる竹の竿
089 蒲公英や石に温みの石舞台
098 余り苗水の流れを変へにけり
122 棚経の僧に問はるる母の歳
124 運動会血筋には無き一等賞
125 去年今年息子の家の客となる
169 一輌と言へど快速青田風
176 条幅をはみ出す文字や筆始

 幾つかを鑑賞しよう。

019 薔薇の香や息子の連れし女客(*)
 自選句と重なった句。九条家には愛情をかけて育ててきた薔薇園がある。今日は息子が女友達、いや多分、結婚相手と決めた女性を連れてくる……というので、自慢の薔薇を用意して飾り、夫婦して待っている。薔薇の香がこころ華やぐ九条さん夫妻の気持ちを代弁している。次の頁には〈花嫁に夫丹精の秋薔薇〉とあるので、縁はめでたく成就したのである。

068 白薔薇の純白といふ難しさ
 これは薔薇を手塩にかけて育てきた人ならではの句であろう。純白の白さを保つことの難しさを教えてくれる。今度から花屋で白薔薇を買うときは、よく注意して見ようと、筆者は思った。

089 蒲公英や石に温みの石舞台
「石舞台」には何度となく行ったのだが、あの巨石の「温さ」を詠った句を、筆者は知らない。もし、先例があったとしても、「たんぽぽ」との取り合わせは絶妙ではないだろうか。

098 余り苗水の流れを変へにけり
 細かく見て、よく気がついた。只事俳句として、見過ごされそうな句であるが、じっと写生していると、無理なく擬人化ができてしまうのである。余り苗への労りが感じられた。

124 運動会血筋には無き一等賞
125 去年今年息子の家の客となる
 家族詠2句。一句目はユーモラスな句。お孫さんは相手方の血筋を豊かに引いていて、それが嬉しい。お嫁さんの係累はスポーツ好きの血筋なのであろう。
 二句目は、新年を息子の家で迎えた時の一句。その嬉しさと、ちょっとした緊張。世話も焼きたいし、親としてどっしりとしてもいたいのであろうか?
 とにかく、平和な一家である。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック