田吉 明『幻花結界』

 田吉明さんが『幻花結界(げんげけっかい)』を上梓された(平成29年6月20日、霧工房)。『波蘭組曲』『錬金都市』『幻燈山脈』『憂愁平野』につぐ句集(?)である。今回の『幻花結界』も以前同様、俳句のような詩のような、とにかく五七五の定型感のある句の組み合わせによる「組曲的俳句詩」とでもいうべき作品集である。
 氏は以前にも紹介したが、京大名誉教授であられ、国語学国文学を専攻された方で、著書も多い。「楕円律」の発行人でもある。


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 まずは巻頭の一組曲(?)を紹介しよう。

  夜の山河
  遠火事が胸に燃えゐる夜の果
  狼のごときもの住む夜の胸
  夜の胸抱けばはるかなる山河
  おもかげ山河 絶滅のもの駈けめぐる

 定型の五七五がつづき、最後が、七七五であるが.これも定型感を保っている。季語的には、一句目が「火事」だから冬。二句目は「狼」だからこれも冬。三、四句目にはもう季語は要らない。共通するものは「夜」と「山河」。季としては「冬」が通底している。
一、二句は独立した俳句としてそのまま読める。三,四句目は、「火事」「狼」「夜」「山河」さらには「胸」をキーワードとしつつ、相互作用しながら、四句全体で内面性豊かな詩をかたちづくる。その特徴は、韻律を大切にする文語表現である。

 もう一組引用しよう。

  夕霧忌
  わたしから夜へはみ出してゐる狼
  風となり夕霧が死に雪となり
  
 古典文学上の「夕霧」を熟知していないと、この句は読みこなせないので、筆者(=栗林)の能力を超えるが、なにか怪しげな魅力を感ずる。メランコリーが氏の特長であるとも言えようか?
 このような組曲俳句詩が二〇〇編ほど続き、終わりにはこんなのがある。

 ほたるご
 ほたるごは母が泣くとき雪になる
 母の手にかなしく白き花が散る
 その指とまれ かなしみのその 指とまれ
 その指とまれ その指とまれ
         その指とまれ かなしみの

なお、「ほたるご」とは、
  この世にひとときの生ももたなかった子 またそのたましひを ほたるごといふ
とある。正にメランコリックである。さらに、あとがきにこう書かれている。

  現代にあって何かを表現する以上現代口語を以てするのが当然、といふ、口語体にとっての、いかにももっともないかにも軽い理由付けがどこかに流れるならば、他方、文語が、死者と語るによい形式であるといふ重い把握の、ここに沈み入ることが、わたしにとって何とも痛切なのである。

 文語は、死者に語りかけるに必須の形式である、との断定はなるほどと思わせる。

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