岡田恵子句集『緑の時間』

 岡田恵子さんが表記の句集を出された(平成28年11月30日、喜怒哀楽書房刊行)。岡田さんは「山河」(山本敏倖代表、前代表は松井国央氏)の同人で、これが第4句集。跋文は岡田さんの旧知の仲、「海程」の安西篤さん。


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 自選句は掲げられていない。筆者(=栗林)の共鳴句を挙げてみる。

005 半身は遍路半分旅ごころ
007 ほたる飛ぶ四国の臍の辺りかな
013 何処からでも掛かっておいで泡立ち草
013 懸崖菊すきまは息をする処
014 大陸を自由に走る嫁が君
015 一病息災餅が上手に焼けました
015 雪国の女がすらり池上線
018 照明の桜の下が欲求不満
019 遠方へ視線は変えず流し雛
023 夏来るバジル風味の電話かな
025 初夏や難民キャンプに絵本来る
037 南吹くどこか戦車の匂いして
038 青葉騒男踊りの腰の位置
039 糸電話ほど離れて歩く夕花野
040 冬もみじ家出はそっと大胆に
041 告白の締切り日です冬紅葉
048 幾分か乱れてみたい菊人形
053 朧夜の売り損ないし潜水艦
063 前方後円墳から春の風
066 放牧の人馬やさしき目を持ちぬ
073 塩竃の桜に染まる角隠し
076 青梅雨や島の形の釘隠し
079 ケータイが呼び合う青いクリスウマス
080 警備員若し銀杏の匂う夜
083 その先へ行きたがる指花の冷え
087 どの窓も海へと続く夏座敷
101 早熟の黒き瞳や夏台風
102 金箔の貝合わせおり青葉闇
103 DNAみんな違って心太
107 立冬や三浦木綿の大漁旗
112 梅三分充分にある明日かな

 共鳴句から幾つか選んで鑑賞させていただく。

014 大陸を自由に走る嫁が君
 嫁が君は大概が天井裏を走るもの。それが大陸を自由に走るのだ。岡田さんの作品群にはこのような跳びぬけた発想豊かな句があって、それが楽しい。開放感のある諧謔句。

023 夏来るバジル風味の電話かな
 これもその類。しかし、014よりは少し上品な詩性がある。バジルを使って料理を仕上げていたら電話が来た。相手の声にバジルの香気を感じた。案外自然な句。

037 南吹くどこか戦車の匂いして
 南風に乗って来るものに戦車のきな臭さを嗅ぎ取った。摂津幸彦の〈南国に死して御恩のみなみかぜ〉を思い出すが、南溟であれば、戦車よりも破船が良いと思いながら、それでは近すぎると思った。やはり戦車だ。

039 糸電話ほど離れて歩く夕花野
 櫂未知子に〈佐渡ヶ島ほどに布団を離しけり〉があったが、岡田さんのこの句は、あくまでも詩的で抒情的。但し、写生というよりは情が勝っている。

080 警備員若し銀杏の匂う夜
 一方、こちらには写生句的でありながら、エロスを感じる。現代的でもある。その点で、筆者(=栗林)にとっては好句である。

102 金箔の貝合わせおり青葉闇
「貝合わせ」というと平安の昔の貴人・婦人の遊び。札合わせ感覚である。貝の裏側には煌びやかな人物(男あるいは女)が金箔の地の上に描かれている。夫婦和合の意味合いもあった。だから、筆者はこのような句にエロスをも感じるのである。青葉闇だから猶更のこと。

112 梅三分充分にある明日かな
 前向きな健康な句。中7下5の「充分にある明日かな」は、どこかで筆者も使わせてもらいたいような気がするフレーズである。

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