林亮句集『高遠』

 林亮さんが第二句集(?)『高遠』を出された(平成28年12月1日)。句集名は氏の好きな字である「高」と「遠」から付けた、とあとがきにあるが、読み方は〈こうえん〉なのか〈たかとう〉なのかは分からない。たぶん前者ではなかろうか。
 句の数は640で、一頁に4句づつ並んでいる。通常の句集の倍の数である。しかも、氏はわずか2年間でこれらを詠んだらしい。おおよそ一日一句である。自分の句集に入集できるような高質な句を毎日一句詠むのは、一般には至難の業である。氏の高い資質と努力あったればこそ成った句集であろう。そう感じたのは、息を抜いた作品がかなり多いのでは、と心配した筆者(=栗林)の予想を見事に裏切り、この句集のどの一句一句も、対象をよく見て、小さな発見を成し、その感興を分かりやすい言葉で読者に渡してくれているからである。


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 自選句は掲げられていない。筆者の勝手な好みで選んでみた。

008 白梅の夜を濁さず明くるかな
008 梅林にひときは紅の混むところ
011 点々と火を残しつつ野火進む
012 立雛のひとつにつきし倒れ癖
013 雛あられ白も含めて晴れの色
018 篝火と枝垂桜のほかは闇
019 清めにと指の先まで花を浴ぶ
023 初蝶の背面跳びに風を越ゆ
024 春塵の立たねばこれほどは吹かず
027 その人の音色となれり遍路鈴
031 遠目にも仕草大きく潮まねき
036 前後ろなき雨音の菜種梅雨
044 花房の高さに降れり藤の雨
050 風薫る蜜柑の花の香も少し
052 遠目にも他とは異なる藺のみどり
054 つりしのぶ吊りてどこにも行かぬ人
058 形代が先流水がその後を
060 白南風のもつとも白き吹きはじめ
078 耳元へ音の間に合ふ遠花火
079 白壁に納涼映画納まらず
084 遠雷として遠方にとどまれり
093 遠縁の問はず語りも盆会かな
105 風草の罠に掛かるは風ばかり
105 古人には聞こえし荻のをんな声
111 歩むより佇むための花野道
112 しやがませてみたき紫苑の立ち姿
116 坂ごとに月の出でたる坂の町
116 ひとりには仰ぎきれざる星月夜
120 ともしびのひとつひとつに秋の暈
123 いつまでも匂ひのとれぬ林檎箱
124 ひとつづつ湯気のあがれる衣被
126 ゆつくりと打てど添水に後れなく
129 穭田の広さに消えし雨の音
141 鷹として生まれて風を司る
141 正されぬままに枯野の里程標
147 壁に掛かれり外套もその影も
155 埋火のあると思へば灰ぬくし
158 火に色の付きはじめたる夕焚火

 こうやって読んでゆくと、この句集の特性が良く分かる。季題を大切に、写生を重ね、小さな発見を丹念に書き綴っている。従って一物句が殆どである。強烈な属人的喜怒哀楽は書かれていない。主義主張を叫んでもいない。知に走らず、情に溺れず、淡々と気づきを詠んでいる。

 特に好きだった句をあげておこう。

012 立雛のひとつにつきし倒れ癖
 幾つか雛を立てるのだが、そのうちの一つが妙に倒れやすい。転び癖がついた、というのだ。だから可哀そうだとも、困ったものだとも、言っていない。ささいな気づきと、寡黙さが心憎い。

027 その人の音色となれり遍路鈴
 お遍路さんはたいてい杖をもつ。弘法大師と同行の杖である。鈴が付いていて、永い間一緒に旅をすると、ひとつ一つ微妙に違う鈴の音が、だんだん自分の音になる。四国の林さんならではの一句。

078 耳元へ音の間に合ふ遠花火
 遠花火の句は多い。音を詠んだ句も多い。だが、この句は実に納得性がある。遠くで花火が揚がった。あら、光だけで音がないんだ! と思ったらようやく音が林さんにとどいた。この微妙な時間差を上手に詠んだ。

079 白壁に納涼映画納まらず
 土地の映画会。町内会が企画したのかも。画面が白壁をはみ出している。子供のころの屋外の映画会を思い出す。大きな白布を竿で張ったものをスクリーンにしていたのだが、筆者は良い席を確保できなかったので、裏に回って観ていたことがある。そんなことを思い出して懐かしい。

105 古人には聞こえし荻のをんな声
 古来歌人に好まれた「荻の声」を詠んだ。「をんな声」としたところに創作が見えて上手い。他の句に比して古典の味を生かした句であり、感心した。

116 ひとりには仰ぎきれざる星月夜
 まさに満点の星。これも筆者の経験だが、四万十川沿いのドライブの際、星の有名な町に泊まったことがある。小高い丘に登って観た感激は忘れられない。つくづく都会は星を失ったと思う。いや「東京には空がない」と気付かされたのであった。

126 ゆつくりと打てど添水に後れなく
 一度鳴ったあと、しばらく音がならない。おや、と思う。もう鳴るころだと思う刻を少し外して、たしかに「ばったんこ」は鳴る。心の中の時間感覚と実際の時間のズレを書いた。078の遠花火の句に通底する感覚句。

147 壁に掛かれり外套もその影も
 何の変哲もない句。だが、味がある。ホテルの小部屋か? 静寂と孤独を感じる。写生句が多い氏の句集中、意外に抒情性を感じさせてくれた、と思うのは筆者の深読みに過ぎるか? 

 季題第一主義的に詠む林さんの不動の姿勢が現れた句集でした

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