坪内稔典百句を読んで

 稔典さんの過去の第11句集『水のかたまり』までの作品から100句を選んで、稔典百句製作委員会が鑑賞文を添えて刊行したもの(創風社、平成28年5月20日刊行)。


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 以前、池田澄子さんの100句を「船団」の有志が鑑賞し、一冊の本にされたことがある。その時、筆者(=栗林)は、次のように書いて読ませて戴いたことがある。

引用
 稔典さんと「船団」の5人が編集した『池田澄子百句』(平成26年8月、創風社刊行)は、池田澄子さんの第1から第5句集までの作品から100句を選び、鑑賞している。
 このような著作物を読む場合、読み手はまず前提なしに池田さんの句のテキストを追い、自分の読みを完成させる。それから句に添えられた鑑賞文を読む。読み手がその句が気に入っている場合は、鑑賞文は参考程度に読み進められる。原句の意味や良さが分からない場合や、拒否したくなる場合(そんなことは滅多にないが)、鑑賞文を食い入るように読む。そして自分の読みの至らなさを反省できた場合、なるほど良い句だ、と思えた場合、鑑賞文付きのこの著作の価値が多いに高まるのだ、と言えよう。
 もともと読み手が、「この句は素晴らしい」、と評価している場合、解説文がそれ以上に効果的に働く場合も、価値がある。しかし、解説文が深読みすぎる、と感ずる場合もあろう。そこが、このような鑑賞文集の難しいところだと思わされた。
 だから、このような著作は、池田さんの句の良し悪し以外に、鑑賞・解説文の価値こそが問われるものと思う。
 筆者が、池田さんの句を読み、続いて鑑賞文を読んでみて、大いに啓発され、目から鱗だった例を掲げよう。◎を付した頁である。次に、もともと好きだった句を○を付して示そう。
引用終わり

 さて、今回もそうしたいのだが、稔典さんの句は池田さん以上に難しい。読みの角度がものすごく広いのだ。だから、まず自分の読みが中々完成しない。そこで今回は、筆者の読みはさておき、鑑賞文を読ませて戴いて、なるほどと思ったものを抽出してみた。それにごくごく短い文章で、納得した評者(「船団」メンバー)の寸言を抜き書きしておいた。掲載句の後ろに評者の名を記載しておきました。
 また、筆者(=栗林)の勝手な短言を入れた場合もあります。

007 多分だが磯巾着は義理堅い        秋月祐一   
     岩に張りついてじっと待っている姿を義理堅いと感受した
012 びわ熟れる土星にいとこいる感じ     内野聖子
     土星との距離感、いとことの距離感が言い得ている
020 行く春の野犬はボヤという感じ      岡 清範
     大事に至らぬボヤが内包する危険さ。野犬も同じ
022 一羽いて雲雀の空になっている      岡野直樹
     たった一羽で空全体を席巻していると感じた
033 老犬をまたいで外へお正月        川嶋ぱんだ
     跨がれても平然としている老犬のもの憂ささ
042 たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ   久留島元
     無理に実景にあてはめず、文字や音を楽しむ。「あたり」の感じがいい
044 月光の折れる音蓮の枯れる音       黒田さつき
     蓮が咲くときや実が飛ぶときは音がする。だが枯れるときは疑問。月光の折れるときもおなじ。ありえな      いアナロジーの面白さ
052 秋の穴半日掘ってそのままに       佐藤日和太
     衝動的に穴を掘りたくなったが、半日でその衝動がなくなった
054 せりなずなごぎょうはこべら母縮む    塩見恵介
     楽しい行事に反して「母縮む」という現実
055 松過ぎのポケットにありロッテガム    塩見恵介
     正月が過ぎ日常に戻るとき、日常を代表するようなガムに気が付いた。固有名詞の俗なはたらきのよさ
061 そうめんともう決めている青田道     滝浪貴史
     昼食をそうめんにするという重要でもないことをあえて事挙げする面白さ
064 夢違観音までの油照り          田中俊弥
     観音にたどり着くまでの苦難を詠んだが、着いたら涼しかったのだろうか
077 がんばるわなんて言うなよ草の花     二村典子
     言葉を掛けた相手の女性を総称的に「草の花」と言った。その心理
078 草に露きれいな嘘がありました      為成暮緒
     相手に掛けた言葉に嘘があった。儀礼的な嘘だが、きれいな嘘。草露のようだ
081 そのことはきのうのように夏みかん    原 ゆき
     記憶を辿るやや甘美な陶酔感。だがすっぱい
092 三月の甘納豆のうふふふふ        星河ひかる
     三月の春のうきうき感。俳句の基本が写生だという人への挑戦。想像して楽しめばよい。稔典さんの術      中の句
093 十二月どうするどうする甘納豆      星河ひかる
     十二月は焦燥の月。甘納豆はよりそってくれるのだ
099 母は病む昆布を水に戻しつつ       水木ユヤ
     読み手に許されるのは長い沈黙だけ
101 つわぶきは故郷の花母の花        三好万美
     稔典さんにとって、母は故郷そのものであり、その象徴が石蕗の花であり宇和海なのであろう
105 ゆびきりの指が落ちてる春の空      諸星千綾
     春の空の下で交わした気まぐれな約束の多かったことよ
121 ぶらりとライオン都会の赤子が眠っている  芳野ヒロユキ
     子供たちの鑑賞では、眠っている赤ちゃんの上で回っているベッドメリーからライオンがぶら下がってい     るのだという

 懐かしい句を含めて、「船団」のメンバーの自由な鑑賞を、筆者も楽しませていただきま
した。有難うございます。



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