平松彌榮子句集『雲の小舟』

 平松さんが第四句集を出された(角川書店、平成28年5月25日刊行)。平松さんは現在「小熊座」の最重鎮で、昭和32年に「馬酔木」に入られてから句歴60年になられる。丁寧な序文は高野ムツオ主宰、あとがきと抽出句12句は我妻民雄氏。



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 まず、その12句を掲げる。

  ぼろ市も星のこぼれも片付きぬ
  木の中のもういつぽんの朝寝の木
  這い出でて紅梅ところどころの世
  号泣の男在りたる糸瓜かな
  夏草やよろけし吾を抜けしわれ
  黍の風つぶやきすでに盗まれつ
  薄氷や天の入口罅割れて
  木犀日和雲の小舟は金の縁
  樹の中の誰も知らない夕日の輪
  姉のためあさざ敷きつめねばならぬ
  年暮るるいつも昨日の神田川
  老いてみな淡し目鼻もコスモスも

 さて、筆者(=栗林)の抽出句も掲げよう。じつは、『雲の小舟』は一読して、老いと死を見据えた重い句集であるとの印象を持った。だから敢て、平明な叙景句や、あまり深く思いを巡らさなくてもその句のよろしさに触れることができたかなと思えたような句を選んだ。句集全体はもっとご自身の心の深淵を抉ったような思索の詩なのである。

026 裸木は父らし神田川源流
036 きぶし咲きたり山鳴りの尾のあたり
042 海底も幾重の山や雁来月
051 水無月や朴の葉ほどの去来の墓
059 わが出奔釣舟草に待たれゐる
062 合鍵を回せばどつと桜草
072 山茱萸の花防人の馬の影
073 ボタン押し違へ全山梅真白
075 たんぽぽの絮薙ぎにくる母の影
087 まんさくの雨幾日の魚心地
090 緑陰を出づるとき皆黒揚羽
102 降るもみぢ思ひ思ひにこときれて
120 夫癒えずば共に帰雁の背にのらむ
123 破蓮いつもおのれに腹立てて
152 昔住みし家のすべてが海市にある
154 新宿の虹売兄であつたかも
166 穂絮とぶひとりぐらしも奔放に
172 紫陽花のぐらりと永き片想ひ

 一句だけ鑑賞させた戴くと、

154 新宿の虹売兄であつたかも

が筆者の琴線に触れたことを白状しよう。虹を売ることを生業としている、とは空想の産物ではあるのだが、そこに詩を感じた。特に虹とは縁の深そうではない新宿である。どんな兄であったかは全く知らないのだが、ノスタルジックな少女趣味と言って済ましてはいけないような気がしたのであった。

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