竹内正與句集『鱗雲』

「星雲」(鳥井保和主宰)の竹内さんが表記の句集を出された(平成28年4月10日、文學の森刊行)。以前、「宇宙」にも所属しておられた。つまり山口誓子の句柄を引きついでいるわけだが、通読してやはり、硬質な抒情を受け継いでいるように思った。

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 まず鳥井主宰の抄出句を掲げよう。

   稲の穂を噛んで豊作疑はず
   登檣礼喊声秋の天を衝く
   神泉の鯉も紅葉も錦なる
   遠洋の基地全天に鱗雲(*)
   伽藍より花の雲海見晴るかす
   夜桜を花火さながら仰ぎけり
   大花野千紫万紅晴れ渡る
   糶待ちの湯気立ち昇る大鮪(*)
   濁声の次の鮪に糶移る
   漁火の沖より漁父の魂還る

 どれも格調高く硬質な抒情・叙景句である。
 筆者(=栗林)も好きな句を選ばせてもらった。(*)は選が重なった句である。

025 田の神に一礼をして代田掻く
030 しんがりを拍手でたたふ運動会
037 玉砕の地にスコールの洗礼受く
040 ひよつとこが背中で笑ふ酉の市
045 太陽に俯き向日葵らしからず
063 調度にも葵のご紋姫の雛
105 万緑の故山に確と化石の碑
116 遠洋の基地全天に鱗雲(*)
129 花筏友禅流しの川にかな
131 突出しに添ふ一輪の花山葵
167 今生れしばかりの蝉の濡れてゐし
169 帰省してすぐに祭の衆となる
186 箸初の膳に一輪桃の花
195 糶待ちの湯気立ち昇る大鮪(*)
201 引鶴の助走を長く飛び立てり
215 鳥兜毒もつ花と思はれず

 幾つかを鑑賞しよう。
025 田の神に一礼をして代田掻く 
 代田掻きの作業を始めるにあたり、田にお辞儀をしてから入る。田をつかさどる神への挨拶である。このような習慣が残っている土地や、それに従う人々を嬉しく思って頂いた。
030 しんがりを拍手でたたふ運動会
 親か祖父母だろう。一番遅れて走ってくる子を拍手で称えている。今も昔もよく見たし、見る景。類句があるかも知れないが、この優しさ微笑ましさに負けて取らされてしまう。
037 玉砕の地にスコールの洗礼受く
 南方の島だろう。遺骨収集に行かれたのだろうか。赤道近辺で俳句を作るのは難しいという(有馬朗人のお話し)。スコールという季語(?)を使ってよく詠んだと思う。
040 ひよつとこが背中で笑ふ酉の市
 酉の市の縁起物に火男の面が付いていて、それを背中にしているのだろうか。間違っているかもしれないが、ともかく人の賑わいが見えてくる。
045 太陽に俯き向日葵らしからず
 向日葵はいつも確り太陽を向いているとは限らない。俯いている向日葵は寂寥感さえある。スペインなどの大きな向日葵畑の秋口は壮大なうらぶれ感がある。
063 調度にも葵のご紋姫の雛
 細かなところまで見て描写した。こう書いてくれると全体も見えてきそうになる。徳川家に伝わる豪華な雛飾りであろう。
105 万緑の故山に確と化石の碑
 村越化石のことを句にされると、つい選んでしまう。今は、岡部の実家の茶畑の近くの墓に入っているし、「玉露の里」には立派な句碑がある。たしか、〈望郷の目覚む八十八夜かな〉ではなかったか。母の起里さんは焼津の出身ではなかったか?
116 遠洋の基地全天に鱗雲(*)
 格調高い句。作者はここに住んでおられ、この景を満喫しているだろうから、何も付け加えることはない。
129 花筏友禅流しの川にかな
 友禅というと京都や金沢を思う。清流に桜が散って筏を作っている。なんとも優雅で出来すぎ感がないわけではないが、美しいことはいいことだと思って頂いた。
131 突出しに添ふ一輪の花山葵
 心憎い演出というのがある。花山葵の一輪がそれ。
167 今生れしばかりの蝉の濡れてゐし
 よく見た。確かにそう思える。
169 帰省してすぐに祭の衆となる
 上手い。どこの祭りでも良いのだが、筆者は八尾市の「風の盆」を思った。都会や地方に散った青年たちがこの時期だけは何はさておき帰省するという。この句の前後には八尾を思わせる句がないので、多分違うだろう。だが、好きな句である。
186 箸初の膳に一輪桃の花
 これも131と同じ趣の句。だが、こちらは多分の孫の箸初のことなのでさらに嬉しい。
195 糶待ちの湯気立ち昇る大鮪(*)
 焼津ならではの光景であろう。魚の卸市場で並んだ冷凍マグロから冷気が白く立ち上がる様を「湯気」とはよく言えた。
201 引鶴の助走を長く飛び立てり
 これも上手い句。鶴の飛翔するときの様子が見事に描写されて、しかも優雅で綺麗だ。
215 鳥兜毒もつ花と思はれず
 まさに言いえている。あの美しい花に毒があるとは思われない。逆に、可哀そうな名前の花(たとえばヘクソカズラ)もある。

 以上大急ぎで鑑賞したが、竹内氏の作品は相対的に力強さが勝っている。例えば、(*)印の句にある「全天」とか「大鮪」の「全」「大」の働きで剛毅な句が仕上がっている。それはそれで羨ましいことなのだが、筆者はそれらに加え、意識的に柔らかい句柄のものをむしろ多く選んだ。例えば、129,131、167、186などである。これらは確かに筆者好みなのだが、実は、選んでおいて心配していることがある。若干既視感……つまり類句があるかも知れないという悩みである。それを考えると、(*)の2句や、鳥井主宰選の10句は竹内氏の特性を言い当てており、「星雲」や「宇宙」の句柄にぴったりで、かつ個性的なのであろう。

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